2020/03/01 up

3月のWOWOW初放送映画 厳選3作品

「居眠り磐音」3/20(金・祝)よる9:00他

 映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。

 今月は、今とは違う時代、異なる価値観の社会を生きた者たちの葛藤をつづった3本を紹介します。

文=ミヤザキタケル


『居眠り磐音』('19)

 シリーズ累計発行部数2,000万部を超える佐伯泰英の小説を、『空飛ぶタイヤ』('18)の本木克英監督、時代劇初主演となる松坂桃李ら豪華キャストで映画化。友を斬り愛する人とたもとを分かつことになった浪人、坂崎磐音の戦いを通し、いつの世も変わらぬ人の心を描いた作品です。

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detail_200301_photo02.jpg『居眠り磐音』
©2019 映画「居眠り磐音」製作委員会

 時代劇を敬遠したり、時代背景がくみ取れず楽しめなかったりという人もいると思う。でも、安心してほしい。本作が時代劇であることは事実だが、不思議と時代劇時代劇していない。それは、歴史的背景をくみ取る必要がほとんどなく、登場人物の設定や関係性に親しみを抱きやすいことに加え、劇中の人間模様が今を生きる僕たちと変わらないからだ。

 幼い頃からともに歩み続けてきた仲間や愛しき人との関係性は、ちょっとやそっとのことでは崩れない。こと磐音と幼馴染みの友たちの関係性においていえば、特に強固なもの。剣術の稽古で衝突しても、3年の江戸勤めで遠距離になっても、彼らのつながりが断ち切れることはなかった。が、たったひとつの嘘によっていともたやすく打ち砕かれる。どんな小さなものであれ、嘘は心に「不安」を生じさせ、不安はやがて「疑念」をはらむ。疑念は「怒り」や「憎しみ」を帯び始め、怒りや憎しみに冒された心は「誤解」や「不和」を巻き起こす。本作でそのメカニズムや心の機微を感じ取ることができるから、誰もがその身をもって経験したことがあるはずだから、深く作品世界に没入できる。

detail_200301_photo03.jpg『居眠り磐音』
©2019 映画「居眠り磐音」製作委員会

 本作の時代設定で現代と大きく異なる点があるとすれば、人を殺める刀を多くの者が所持していること。対話による問題解決がかなわなければ、その力に頼ってしまうということ。そして、一度でも刀による問題解決にすがってしまったが最後、逃れることのできない呪縛にとらわれてしまうということ。その因果を背負うことになった磐音が抱く葛藤が、とても繊細に、ドラマチックに、時にはロマンチックに描かれていくからこそ、観る者の心は突き動かされる。時代は違えど、誰の心にもまとわり付く負の感情を、それらの感情を払拭し得る善意・誠意・信頼・愛情の可能性を描いたエンターテインメント時代劇です。


『マイ・ブックショップ』('17)

 英国ブッカー賞受賞作家ペネロピ・フィッツジェラルドの小説を、『死ぬまでにしたい10のこと』('03)のイザベル・コイシェ監督が映画化。本屋を営む戦争未亡人のフローレンス(エミリー・モーティマー)が、町の有力者の横槍によって窮地に立たされていく様を通し、正しさの定義を問う一本。

detail_200301_photo04.jpg『マイ・ブックショップ』3/18(水)よる7:00
©2017 Green Films AIE, Diagonal Televisio SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

 舞台は1959年のイギリス。スマホやネットもない時代だからこそ、余計な不純物が取り除かれスッと心にしみわたってくるものがきっとある。一方で、時代故のしがらみも描かれている。保守的で、閉鎖的で、新しい価値観を拒みがちな小さな町。決められた枠からハミ出る者がいれば、町の人から避けられるか攻撃されるかのふたつにひとつ。今とは違い、何より家柄や地位がものをいう時代。何の力も後ろ盾も持たない者があらがうには、無知のままではいられない。序盤は穏やかな展開だが、次第にどうにもならない現実がフローレンスと観る者の心をむしばみ始めていく。

 そう、現実は物語のようにうまくはいかない。正義が勝つとは限らないし、土壇場で一発逆転が起きる保証もどこにもない。どれだけ慎ましく生きようと、理不尽な目には遭う。分かり合えない人は必ずいるし、逆に誰かにとっては、自分がその"分かり合えない人"になることも。すべての人が分かり合えることは、絶対にあり得ない。誰だって自分の言い分があるし、己の心に従って生きていたい。でも、己の正しさと法における正しさが必ずしも一致はしない。悪しき想いを抱えた者であっても、法の正しささえ味方に付けてしまえば、その悪意は正義と見なされる。そんな世界を僕たちは生きている。

detail_200301_photo05.jpg『マイ・ブックショップ』
©2017 Green Films AIE, Diagonal Televisio SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

 正しさの定義とは何なのか、理不尽な世の中と向き合う上で避けては通れない問題と真摯に向き合った本作は、あなたの心に何とも言い難い余韻を残すはず。


『ビリーブ 未来への大逆転』('18)

 男女平等裁判に挑んだ女性弁護士ルース・ベイダー・ギンズバーグの実話を描いた物語。圧倒的不利な状況ながらも差別と戦うルース(フェリシティ・ジョーンズ)の姿を通し、より良き未来を築くために必要な姿勢と勇気を映し出す。

detail_200301_photo06.jpg『ビリーブ 未来への大逆転』3/21(土)よる10:00他
©2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

 性別・人種・国籍など、人類の歴史をさかのぼればいつの世にも差別は付き物。先人たちの努力によって、それらが「おかしいこと」だという基盤や認識だけはできているが、男女差別が当たり前のようにまかり通っていた時代が確かにあった。劇中でも描かれたそんな時代がたった60数年前の話だというのだから驚き。女性が選べる仕事は極めて限られ、クレジットカードを作ることさえ認められていなかった。稼ぐのは男の仕事で、家事や育児は女の仕事。そんな男性優位のいびつな社会に立ち向かい、男女平等の礎を築いた女性の苦悩と努力をあなたは垣間見る。

 時代が変われば人も変わる。人が変われば時代も変わる。しかし、待っているだけじゃ、人任せにしているだけじゃ、思い描いた理想の未来は訪れない。圧倒的理不尽を前に紆余曲折を経ながらも、正しさを貫くための道を歩んでいくルース。上手くいかないことばかりでも、今この瞬間だけがすべてじゃない。諦めない限り、手放さない限り、信じ続ける限り、可能性は潰えない。その可能性の果ての今を僕たちは生きているのだということを、3月15日で87歳になる現在も米国最高裁判事を務めるルースの半生が示してくれる。

detail_200301_photo07.jpg『ビリーブ 未来への大逆転』
©2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

 過去があって今がある。当たり前のようで当たり前ではない日常に価値を抱くキッカケを与えてくれる3作品とともに、3月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。


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  • 文=ミヤザキ・タケル
    長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。


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[放送情報]

居眠り磐音
WOWOWシネマ 3/20(金・祝)よる9:00
WOWOWプライム 3/23(月)よる7:45
WOWOWシネマ 3/30(月)午後1:30
WOWOWシネマ 4/11(土)午後1:25

マイ・ブックショップ
WOWOWシネマ 3/18(水)よる7:00

ビリーブ 未来への大逆転
WOWOWシネマ 3/21(土)よる10:00
WOWOWシネマ 3/31(火)午後3:00

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