『家族のレシピ』4/16(木)よる7:15他
映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。
今月は、日本とシンガポールの外交関係樹立記念作品、誘拐事件に着想を得た物語、異文化恋愛物語と、現実の要素が絡んだ3本を紹介します。
文=ミヤザキタケル
斎藤工主演、シンガポールの巨匠エリック・クー監督による、シンガポールと日本の外交関係樹立50周年記念作品。自身のルーツを探るべく、今は亡き日本人の父とシンガポール人の母が出会ったシンガポールへと旅立つ青年、真人(斎藤)の姿を軸に、家族や料理、戦争の観点から、他者とのつながりや相互理解の重要性を描いていく人間ドラマ。
文化・宗教・歴史・国籍・言語など、国や人を隔てる要素は無数に存在するが、料理を食べて「美味しい」と感じる心は万国共通。産地が異なる食材同士であっても調理の仕方や創意工夫で美味しい料理となる。もしそれと同じことが人間同士の間でも起きたのなら、どんなに素晴らしいことだろう。生まれも育ちも価値観も異なる人間たちが理解し合い手を取り合うことでひとつとなり、素晴らしい未来を創造していける可能性だってゼロではない。ただ、実現していくまでには幾多の困難が付きまとうことを、あなたは真人が直面する厳しい現実を通して垣間見る。
『家族のレシピ』
©Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
何かを理解するとは、対象の良い部分も悪い部分もしっかりと見極められるということ。どちらか片方にのみ目を向けているうちは、真に対象を理解したとは言い難い。それは上質な料理をつくる上でも、人と人との関係性においても、より良き未来を築いていく上でも言えること。食材の良さを最大限に活かす方法と、最大限におとしめてしまう方法、そのどちらも把握できているからこそつくれる料理がある。人間関係においても、相手の長所も短所も把握できているからこそ、それぞれの特性に合った役割を与えたり補い合ったりすることもできる。輝かしい人類の歴史もあればおぞましい歴史もあり、どちらも真摯に受け止めてこそ切り拓いていける未来がある。
バラバラになった家族の物語である本作で描き出される、国籍の異なる両親それぞれのソウル・フードと、未だ癒えぬ戦争の傷痕を通し、誰にとっても必要な「愛」と「食」と「より良き未来を求める心」を見事に示した作品です。美味しいラーメンのように、たくさんのものが詰まっています。
『家族のレシピ』
©Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
1993年にイタリアのシチリア島で実際に起きた少年の誘拐事件に着想を得た物語。13歳の少女ルナ(ユリア・イェドリコフスカ)が、想いを寄せる同級生のジュゼッペ(ガエターノ・フェルナンデス)の突然の失踪に疑問を抱き、行方を捜すのだが...。思いを果たすことが許されず追い込まれていく少年少女の姿を映し出す。
誰もが通る子ども時代。10代の多感な時期を乗り越えて僕たちは皆大人になった。無数の壁を前につまずき、純粋であった部分は次第に汚れ、良くも悪くも賢くなり、効率的な道を好むようになっていく。理屈抜きで考えること、後先考えず目の前のことに全力投球できたのは過去のこと。そう、本作が描くのは少女が大人になっていく過程であり、少年が大人になることを許されなかった結果なのだ。
『シシリアン・ゴースト・ストーリー』4/3(金)よる11:05
©2017 INDIGO FILM CRISTALDI PICS MACT PRODUCTIONS JPG FILMS VENTURA FILM
物語の難解さを解き明かそうとすればする程に、タイトルが意味するものが見えてくる。(実話ベースであるためネタバレと受け取ってほしくないのだが、)779日にも及ぶ監禁生活の果てに少年が絞殺され、死体は酸で溶かされたという実際に起きた凄惨な事件。その被害者である少年の心を、大人になることを許されなかった彼への弔いを、本作は映画という独自のツールを用いることで果たそうとしていたのではないだろうか。
あなたが目にすることになるのは、おそらくひとつの可能性。今この瞬間もこの世に留まり続けているかもしれないジュゼッペの魂に、ルナというフィクションの存在を通して数々の慰めを、映画の中だけでも魂の救済を与えようとしていた気がしてならない。見る人の心持ち次第で、如何様にも受け止め方が変わってくる作品です。
『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
©2017 INDIGO FILM CRISTALDI PICS MACT PRODUCTIONS JPG FILMS VENTURA FILM
主演を務めるクメイル・ナンジアニの実体験を映画化し、米国でたった5館の上映から口コミで話題となり大ヒットした異文化恋愛物語。パキスタン出身で米シカゴに住む駆け出しのコメディアン、クメイルと、米国人で大学院生のエミリー(ゾーイ・カザン)が、生まれや文化の違い、親の反対などが原因で生じるさまざまな問題を前に奮闘する姿から、傷つく勇気と歩み寄る努力を描いた作品です。
子どもにはより良き道を歩んでほしいと願うのが親心。たとえ価値観の押し付けが我が子との間に不和を生んだとしても、根底に宿る想いは善意のはず。その想いを踏みにじりたくないと願うのが子の心。とは言え、できることなら家族と恋人を天秤に掛けるような真似はしたくない。文化や宗教など、人によってはピンとこない要素が混じっているけれど、あくまでも本作は恋愛物語でありひとりの男の成長劇。誰であろうと入り込める余地や、万人に共通し得る葛藤が詰まっている。
『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』4/5(日)よる9:00他
© 2017 WHILE YOU WERE COMATOSE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
恋人と添い遂げたいのなら、家族も手放したくないのなら、どれだけ時間がかかろうと諦めないこと。絶えず衝突もするし、膨大な時間を費やすだろうが、根っこの部分で通じ合うことができているのならいつかは乗り越えられる。やがて互いに納得のいく答えにだって辿り着ける。土足だろうが何だろうが、相手の心に踏み込まなければ何も始まらない。傷つくかもしれないし傷つけるかもしれないが、それなくして前になど進めない。傷つく覚悟が、拒まれようとも踏み込む勇気が未来を変える。大きな痛みこそ大きな喜びを得るために必要なものなのだと、この作品は教えてくれる。
『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』
© 2017 WHILE YOU WERE COMATOSE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
僕たちが生きる現実に還元できる多くのものを内包した3作品と共に、4月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。
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文=ミヤザキ・タケル
長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。
[放送情報]
家族のレシピ
WOWOWシネマ 4/16(木)よる7:15
WOWOWプライム 5/28(木)午後5:00
シシリアン・ゴースト・ストーリー
WOWOWシネマ 4/3(金)よる11:05
ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ
WOWOWシネマ 4/5(日)よる9:00
WOWOWプライム 4/7(火)よる7:25
WOWOWシネマ 4/16(木)午後3:00
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