『長いお別れ』5/10(日)よる9:00他
映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。
今月は、小説やエッセイを原作とする三者三様の3本を紹介します。
文=ミヤザキタケル
認知症を患う父親とその家族を描いた中島京子の小説を、『湯を沸かすほどの熱い愛』('16)の中野量太監督が蒼井優、竹内結子、山﨑努ら豪華出演陣で映画化。父親の70歳の誕生日から7年にわたる家族のかけがえのない時間を通し、誰にも等しく訪れる親との別れ、残す側・残される側の想いを描いた作品です。
人それぞれにタイミングは異なるが、かつて祖父や祖母がそうしてきたように、父と母もそうしてきたように、僕たちもまた両親を見送る時が、別れを告げなければならない時がやって来る。観る側にとって劇中の家族はまったくの他人であるけれど、おそらく誰もが自分自身を、自身の家族の姿を重ね合わせてしまうはず。大事な人が自分のことを認識できなくなる悲しさや大事な人が去ってしまう寂しさといった、実体験しないと確証を得られぬ感覚を、本作の登場人物の葛藤を目の当たりにすることで疑似体験できてしまう。既にその時間を通り過ぎた人にとっても、まだその時間が訪れていない人にとっても、決して他人事では済ませられない人間ドラマがそこにはある。
©2019『長いお別れ』製作委員会
大人になれば、実家を出れば、親と顔を合わせる回数も必然的に減っていく。気軽に帰れる距離でないのならなおのこと。ある程度の年齢に達すれば、別れの日はいつ来てもおかしくない。予測できないことばかりで嫌になるが、一つだけ確かなことがある。どんな結果になろうと、これまで家族と過ごしてきた時間や思い出は残り続けるということ。すぐには割り切れなくても、いつの日か笑顔を取り戻し、思い出の数々を力に変えられる。幸福な時間を、より良き人生を切り開いていける。この作品が、その事実を示してくれる。
©2019『長いお別れ』製作委員会
観終える頃には、家族との大切な思い出が心を覆い、今すぐにでも家族に会いたくてたまらなくなっていると思います。そんな映画体験、なかなかできるものではありません。
殺し屋が集うダイナーを舞台にした平山夢明の小説を、『ヘルタースケルター』('12)、『人間失格 太宰治と3人の女たち』('19)の蜷川実花監督と、監督の父、幸雄を含めた蜷川ファミリーゆかりの俳優陣で映画化。天才シェフのボンベロ(藤原竜也)が取り仕切るダイナーに足を踏み入れた孤独な女性オオバカナコ(玉城ティナ)が直面する壮絶な殺し合いを通し、人が前へ進んでいくために必要なことを映し出す。
母に捨てられた過去にとらわれ、自らの存在意義を見いだせないカナコ。人を信じず、自分も信じず、誰とも深く関わることなく生きていたが、不意に死と隣り合わせの世界に身を置いたことで、彼女は初めて強く"生"を実感する。ふさぎ込んでいても、言い訳しても、目の前に迫る"死"は止められない。行動を起こさなければ、本気で相手と関わらなければ、今を、未来を見据えなければ、生き残れない。強制的にそんな状況に追い込まれたことが、彼女にとって変化の兆しになっていく。そう、ギリギリまで追い込まれなければ、人は動き出せないもの。人生を変えるほどの出来事が訪れるとすれば、それは自らの強い意志によって一歩踏み出せた時にだけ。
『Diner ダイナー』5/16(土)よる8:00他
©2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会
旅行に行くための30万円を手に入れるため怪しいバイトに手を出し、ダイナー送りになったカナコ。仮に運良く30万円をGETできていたとしよう。楽して手に入れた30万円で行く旅行と、苦労して稼いだ30万円で行く旅行。言うまでもないが、実りある旅行になるのはどちらだろう。数十年たっても心に残り続けるのはどちらだろう。ざっくり言ってしまえば、本作が描いていたのはそういうこと。それを突拍子もない設定やキャスト、蜷川実花特有の色彩豊かな世界観で描いているのがとにかくぜいたく!
殺し屋たちが集うダイナーで繰り広げられていく物語の根底に宿るのは、誰にでも共通するとても大切なこと。カナコにとってはダイナーに足を踏み入れたことが人生の転機となるが、ダイナー送りになることのない僕たちにとっては、一体何が転機になるのだろう。それは自分自身の人生で見つけ出していく他ない。
©2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会
約25年間にわたり通った茶道教室での時間と日々の出来事をつづった森下典子の自伝エッセイを、『光』('17)、『タロウのバカ』('19)の大森立嗣監督が、黒木華、樹木希林、多部未華子出演で映画化。お茶の世界に足を踏み入れた主人公の女性が大人になっていく姿を通し、ありのまま・あるがままに生きることの難しさや素晴らしさをユーモラスに示す。
自分のやりたいこと、向いていること、やりがいを感じられること。それらが必ずしも一致するとは限らない。やりたいことであっても、向いていないこともある。向いていることであっても、やりがいを感じられないこともある。やりがいを感じていても、必要とされないこともある。自分にとって本当に大事なこととは何だろう。
『日日是好日』5/6(水)よる9:00他
©2018「日日是好日」製作委員会
樹木希林演じる茶道の先生が言っていた。「世の中には"すぐ分かるもの"と"すぐ分からないもの"の2種類がある」と。本当に大事なことは、いつだって後になってみないと分からない。親元を離れたからこそ見えてくる親の愛や、地震などの災害によって奪われた日常、劇中で触れられるフェデリコ・フェリーニ監督の『道』('54)が示すように、年齢を重ねたからこそ感じ取れるものも確かにある。20代から30代、30代から40代になっていく主人公の喜怒哀楽に自身の人生を重ねていけば、身につまされるものが、時には、そっと背中を押してもらえるようなものが詰まっている。
お茶の世界を描いていたからか、携帯電話やネットが発達する以前の時代から物語が始まるからか、映し出される四季の美しさが要因なのか、穏やかな時の流れに身を委ねられる優しい作品です。思い通りにいかない人生に疲れた時、一息つくだけの心の余裕を与えてくれると思います。
©2018「日日是好日」製作委員会
日々を生きていく上での支えになり得る3作品とともに、5月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。
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文=ミヤザキ・タケル
長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。
[放送情報]
長いお別れ
WOWOWシネマ 5/10(日)よる9:00
WOWOWプライム 5/14(木)午後5:45
WOWOWシネマ 5/21(木)午後3:00
WOWOWプライム 6/4(木)深夜3:45
Diner ダイナー
WOWOWシネマ 5/16(土)よる8:00
WOWOWプライム 5/17(日)午前10:25
WOWOWプライム 5/20(水)よる7:00
WOWOWシネマ 5/24(日)午前8:00
WOWOWシネマ 6/12(金)よる7:00
WOWOWシネマ 6/27(土)午前5:30
日日是好日
WOWOWシネマ 5/6(水・休)よる9:00
WOWOWシネマ 5/30(土)よる6:15
WOWOWプライム 6/14(木)午前5:45
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