2020/05/01 up

尾上松也のいち押し映画は"なるべくして生まれた名作"『アンタッチャブル』

『アンタッチャブル』5/22(金)午後2:20他

映画を愛する著名人や映画評論家がおすすめの映画作品を紹介する"フィルムガレージ"。今回お越しいただいたのは歌舞伎俳優の二代目尾上松也さん。歌舞伎だけでなく、ミュージカルやTVドラマなどでも幅広く活躍されています。

──今回、松也さんにキュレーターとして選んでいただいたのが『アンタッチャブル』('87)。禁酒法時代の汚職にまみれた米シカゴを舞台に、アル・カポネ(ロバート・デ・ニーロ)をボスとした巨大ギャング組織と、彼の逮捕を目論む米国財務省捜査官エリオット・ネス(ケヴィン・コスナー)率いるチーム"アンタッチャブル"が死闘を繰り広げるクライム・アクションです。ネスと組む老巡査マローン役のショーン・コネリーが、第60回アカデミー賞助演男優賞を受賞しました。

尾上松也(以下、松也)「ギャング映画が好きなんです。マフィアって、日本の戦国武将に通じるものがあると思っていて。『兄弟』なんて言いながらいつ殺し合うか分からない、皮一枚で関係がつながっているような感じとか似てますよね」

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──ギャング映画を好きになったのはいつ頃ですか?

松也「中学生の頃、『ゴッドファーザー』('72)に出会って、ギャング映画に目覚めました。それからその時代のマフィアを描く映画を漁りだしたときに、改めて『アンタッチャブル』を鑑賞して素晴らしい映画だなと。この映画では、ギャング組織における正義と悪も描かれているんです。最初に『アンタッチャブル』を観たときは単純にケヴィン・コスナーが格好いいと思うくらいでした」

──今改めて観て、違う感想などお持ちですか?

松也「大人になって改めて観ると、エリオット・ネスがスーツにベストを重ねてるのが格好いい。僕がいま持ってるスーツは、ほぼベストもセットで揃えてて。あえて言うなら拳銃のホルダーも着けたいくらいです(笑)。ネスがジャケットを脱いだ後に拳銃ホルダーも一緒に取る仕草とか最高で。今はあんまりやってる人いないけど、スーツを着た時に家でこっそり帽子かぶったりとかもします。いいですよね、あの頃のファッション」

──この作品はカポネが記者に囲まれながらひげを剃られているシーンから始まります。なかなか面白いカットから入る印象的なオープニングです。

松也「理髪店のおじさんがカポネの顔を切っちゃって、和やかだったムードに一瞬、殺されるんじゃないかという緊張感が走る。あの時点ではどういう状況で、ひげを剃られてる人物が誰なのかも分からないけど、あの一瞬で彼がどれだけ危険かが伝わってくる。それを引き出せたのは監督の演出とデ・ニーロのパフォーマンスですが、それができるスタッフと役者が揃っていることからして、この作品は間違いないと思わせてくれます」

detail_200501b_photo03.jpg© TM & Copyright©2019 By Paramount Pictures. All Rights Reserved.

──役者の松也さんから見て印象に残ったシーンとかありますか?

「僕が演劇的に好きなのは、ネスの登場シーンです。シカゴに赴任したネスの初出勤の日の朝、家で新聞を読んでいる彼を、あえて顔を映さず背中越しに映して、シカゴ警察庁舎のなかで所長が『エリオット・ネスだ』って紹介するまで引き伸ばすっていう演出が、"主役をどう立たせるか"よく工夫されているのが分かる。早い段階でネスとカポネの人物像、あとシカゴの状況っていうのがテンポよく無駄なく伝わってくるのは見事ですね」

──アンディ・ガルシア演じる新米警察官ストーンの登場シーンもいいですよね。ネスとマローンがチームのメンバーをスカウトしにやって来た警察官の訓練場で、抜群の銃の腕を見せる。さらにその後、自分をイタリア人という理由でののしったマローンに喧嘩をふっかけます。ここも彼の人間性が分かるシーンです。

「アンディ・ガルシアは『アンタッチャブル』でブレイクしたようなものですよね。ネスやマローンと共に命を懸ける覚悟で戦っていくには、組織や体制にとらわれない根性がある人でないといけない。ストーンが入ったあたりから、チーム力がぐんと上がっていく。僕は友情ものに弱いので、寄せ集めの"アンタッチャブル"が固い絆で結ばれていくのを観るのがたまらないんです。チームを引っ張っていくネスがいて、チームが揺らぎそうになったときにしっかりとまとめてくれるマローンがいて、何をするかわからない危うさをもつストーンがいて。それに戦った経験なんてないような経理係のウォレス(チャールズ・マーティン・スミス)がいる。全然タイプの違う人たちが集まって、ひとつのことを成し遂げようとする精神性にすごく共感します」

※編集部注
ここから先はネタバレを含みますのでご注意ください。



──本作最大の見せ場といわれるのがクライマックス、ユニオン・ステーションの大階段での銃撃戦。後の映画史に大きな影響を与えたとされる名シーンですが、最初ご覧になったときはどう思われましたか?

detail_200501b_photo04.jpg© TM & Copyright©2019 By Paramount Pictures. All Rights Reserved.

松也「展開が読めなさすぎて。一体どうなっちゃうんだろう? どこからどう襲撃されるかもわからないし、怪しい人たちもたくさんいるし、意味ありげに乳母車に乗った子どもを映したりするし...パニック状態でしたね」

──そこからの展開は怒涛でした。

松也「アンディのアクションが本当に格好いいから観てほしい。これでブレイクしない俳優はいるか!? って思いましたね。ラストのネスからマローンの形見を託されたときのアンディも好きです。アンディの目に涙がたまるんです。でも涙は出なくて、涙が出そうになるところで留まってるのが男らしくていいですよね。あの男が泣きそうになってるってだけでグッとくるものがあります」

──そう言われてみると、珍しく彼の感情がよく表れているシーンでした。

松也「基本的にはクールで、負けん気と殺気は常にあるけれども、どれだけ仲間に対する思いがあったのかっていうのはあそこで明らかになりますよね」

──一説によると、監督はクライマックスに汽車の中での銃撃戦を考えていたそうですが、予算が足りず、『戦艦ポチョムキン』('25)のワン・シーンに着想を得て大階段にしたとか。

松也「お金があって何でもできればいいシーンが撮れるってわけではない、お金がないからこそ撮れるシーンもあるっていうのが映画の面白いところですよね。僕はこういう名作が生まれるときって、それが普段は失敗と思えるようなことでも、そうなるべくして全てがうまくいく方向に流れていくような気がします。例えば、共演しているそうそうたるメンバーの中で言ったら、アンディ・ガルシアはまだ素人っぽさが芝居に残っていて、演技派とか技巧派っていう感じはしない。でもそこが逆に新人警官役にすごく合ってました」

──彼らのアンサンブルあってこその作品でしたね。

松也「大御所のショーン・コネリーがいて、演技派のデ・ニーロがいて、スター性のあるケヴィンがいて...そこに、まさにこれからっていう無名の新人アンディが加わる。それぞれの魅力や境遇が、芝居を越えたもっと奥底でぶつかり合っているのを感じましたし、それがこの作品の良さにつながっているんだと思います」


映画を愛する著名人が、キュレーターとして選んだいち押しの作品を放送する新枠「フィルムガレージ」がWOWOWでスタート!平日の午後、とっておきの1作をお届けします。キュレーターが作品を選らんだ理由や自身の映画ライフを語るインタビューをYoutubeで公開。シネピックでもインタビュー記事を公開していきます。
動画はこちらをチェック


[放送情報]

アンタッチャブル
WOWOWプライム 5/22(金)午後2:20
WOWOWライブ 5/28(木)深夜3:58

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