『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』5/15(金)よる9:00他
文=ミヤザキタケル
映画アドバイザー・ミヤザキタケルがおすすめの映画を1本厳選して紹介すると同時に、併せて観るとさらに楽しめる「もう1本」を紹介するシネマ・マリアージュ。
第15回は、警察とマフィア双方に潜入する男たちの駆け引きをスリリングに描き、レオナルド・ディカプリオの新たなる一面を引き出した『ディパーテッド』と、ブラッド・ピットとの共演でも話題となった『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』をマリアージュ。
『ディパーテッド』('06)
香港映画『インファナル・アフェア』('02)のリメイク作にして、「無冠の名監督」と呼ばれていたマーティン・スコセッシに念願のオスカーをもたらした第79回アカデミー賞監督賞受賞作(作品賞・脚色賞・編集賞も受賞)。警察官ながらも極秘捜査のためマフィアに潜入するビリー(レオナルド・ディカプリオ)と、マフィアながらも情報収集のため警察の特別捜査班に潜入するコリン(マット・デイモン)。立場の違う2人のスパイの運命が複雑に絡み合い緊迫していく様は、あなたの心をつかんで離さない。
今では誰もがその名を知る名俳優レオナルド・ディカプリオ。数々の代表作があることはもちろん、『レヴェナント:蘇えりし者』('15)で念願のアカデミー賞主演男優賞にも輝き、名実ともに揺るぎない地位を確立させた。だが、そんな彼にも危うい時期があったことをご存知だろうか。本格的なスクリーン・デビュー作『ボーイズ・ライフ』(`93)を経て、『ギルバート・グレイプ』(`93)では19歳にして第66回アカデミー賞助演男優賞にノミネート。その後、『タイタニック』(`97)で大ブレイクを果たした彼であったが、そこから『ディパーテッド』に至るまでの道程は険しかった。
© Warner Bros. Entertainment Inc.
『タイタニック』以降、アイドル的な人気が過熱し、美青年的な役柄のイメージが付いてしまったことであったり、出演作が"最低"映画を選ぶゴールデン・ラズベリー賞を受賞してしまったり、『タイタニック』以前が良作続きであったことも相まって、かつての神童ぶりは鳴りを潜めることに。極め付けは『ギャング・オブ・ニューヨーク』(`01)。初のスコセッシ作品への参加であったが、第75回アカデミー賞において主演男優賞にノミネートされたのは、主演のディカプリオではなく、助演であるはずのダニエル・デイ=ルイスであった。そう、完全にルイスの名演に食われてしまったのである。そうして固定化されてしまったイメージの払拭にあえぎ、過去の栄光から脱却できない期間が長らく続いていた中、ついに変化の時が訪れる。
© Warner Bros. Entertainment Inc.
今では当たり前に感じられるかもしれないが、美青年イメージを大いに覆し、ハードで男くさい路線もいけるのだということを世界中に知らしめたのが、この『ディパーテッド』。もしもまだディカプリオに対し、彼が拭い去ろうとしていた美青年イメージしかもっていない人がいるのなら、現在の彼へとつながる過渡期にあるこの作品を必ず目にしていただきたい。そこには"美青年"から"泥くさい男"までをも演じ分けられるようになった彼の魅力と底力が詰まっている。
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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』('19)
ディカプリオとは『ジャンゴ 繋がれざる者』('12)でもタッグを組んでいるクエンティン・タランティーノ監督作。初共演となるディカプリオとブラッド・ピットが、スターの座に返り咲こうと奮闘する落ち目の俳優とその相棒であるスタントマンを演じ、タランティーノ監督が女優シャロン・テートが殺害された実際の事件を絡めてハリウッドの光と闇を映し出す。
『ディパーテッド』以降、順調に出演作品や役柄の幅を広げていったディカプリオ。『ディパーテッド』を目にした後に本作を目にしたのなら、止まることなく成長し続けてきた彼の"進化"、磨き抜かれた演技力の"深化"、ハリウッドを代表する俳優としての"真価"を存分に感じ取ることができるだろう。年齢も40代半ばに差し掛かり、さながら往年のロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジャック・ニコルソンらの匂いを醸し始めてきたかのように感じているのは僕だけではないはずだ。受賞には至らなかったものの、本作の演技でも第92回アカデミー賞主演男優賞にノミネートを果たしているのは、もはや当然の結果であると言えよう。
ところで、本作を観るにあたり事前に知っておいていただきたい要素がひとつある。それは先述したシャロン・テートの存在だ。劇中にも登場する巨匠ロマン・ポランスキー監督の妻であったテート。当時妊娠8カ月目であった彼女は、ポランスキー不在時の自宅で狂信的なカルト信奉者達の手により惨殺された。全米を震え上がらせた実際の凶悪事件が、少年時代を事件のあったLAで過ごしたタランティーノの記憶や思い出と、そしてフィクションの存在である主人公たちの葛藤や友情と、物語の中でどのように絡み合っていくのか。それもまた本作の見どころのひとつとなっている。
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162分という長尺の作品であるのだが、落ち目の俳優の苦悩も、テートに関するあれこれも、全ては怒濤のラスト13分に深い意味を持たせるためにあったのだと僕は思う。ネタバレになるため詳細は書かないが、タランティーノ監督の圧倒的な力技によって引き込まれてしまう部分と同時に、僕たちの人生においても共通し得ることが集約されていた。それぞれがそれぞれの人生において最善を尽くすことができたのなら、たとえ望み通りの結果は得られずとも、その頑張りや熱量は知らず知らずの内に周囲にも影響を及ぼしていく。本気で何かに向き合い努力した時間は、他者の運命や未来さえも変えていく可能性を秘めている。無冠であったスコセッシにオスカーを与え、長い時間の果てに自らもオスカーを手にしたディカプリオ然り、本作で彼が演じる俳優の生き様然り、不条理を嘆きながらも抗い続けた時間は決して無駄にはならない。その恩恵を受けられるのは自分ではないかもしれないが、きっと何かに繋がっていく。ディカプリオ本人が辿ってきた道筋が、劇中の男達が辿っていく道筋が、僕たちにも宿り得る多くの可能性に気付かせてくれるに違いない。
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紆余曲折を経て現在の地位にまで辿り着いた名俳優レオナルド・ディカプリオ。その険しくも輝かしい道程を存分に味わうことができる2作品、ぜひセットでご覧ください。
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文=ミヤザキ・タケル
長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。
[放送情報]
ディパーテッド
WOWOWプライム 5/17(日)深夜0:00
WOWOWシネマ 6/26(金)深夜1:00
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
WOWOWシネマ 5/15(金)よる9:00
WOWOWシネマ 5/24(日)午後1:15
WOWOWシネマ 6/5(金)深夜0:50
WOWOWプライム 6/13(土)午後5:15
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