2019/02/22 up

知っているようで意外と知らない アカデミー賞視覚効果賞に注目!

「生中継!第91回アカデミー賞授賞式」2/25(月)午前8:30

 数あるアカデミー賞のカテゴリーの中でも、作品賞や監督賞、主演男優&女優賞などはニュースでも大きく取り上げられるが、マニアックな部類に入るのが視覚効果賞だろう。

 そもそも「視覚効果とは何か」ということすら、理解していない人も多い。「CGを使うヤツでしょ」という答えが返ってきそうだが、視覚効果(ビジュアルエフェクト: VFX)とCGに直接の関係はなく、昔のように光学(オプチカル)合成などの技術を用いていても視覚効果と呼ばれる。簡単にいえば、撮影済みの映像に二次的な効果を加えることだ。

 よく似た言葉に特殊効果(スペシャル・エフェクト: SFX)があり、フィジカル・エフェクト、プラクティカル・エフェクトなどとも呼ばれ、撮影中に爆発を起こしたり、天候操作、建物の倒壊、飛行機&船舶などの揺れ、ワイヤーワーク、アニマトロニクスなどの物理的な仕掛けを施してリアルタイムに表現される効果をいう。

 以前は、特殊効果のスーパーバイザーが視覚効果も兼任することが多かったため、特殊効果賞(Academy Award for Best Special Effects)というカテゴリーで一緒にされていたが、驚くことに1939年から1962年の間は音響効果とも合同だった。そのため昔の米国の映画雑誌には、「業界内でヒエラルキーが高い、音響効果技術者が優遇されている」というコメントも載っていた(こういった扱いは今でも変わらず、映画のエンドクレジットでは視覚効果スタッフが最後の方にやっと出てくるというのが習慣化している)。

 1963年にやっと音響効果編集賞(現・音響編集賞)が分離され、1964年から特殊視覚効果賞(Best Special Visual Effects)となっている。この頃の受賞者を見ると、『メリー・ポピンズ』('64)でマットペインティングを手掛けたピーター・エレンショウや、『ミクロの決死圏』('66)の合成を担当したアート・クルックシャンクがいる一方で、『007/サンダーボール作戦』('65)のスペシャルエフェクトを手掛けたジョン・スティアーズもいるというように、SFX/VFXの両分野のスタッフが混ざってしまっている(極端な例では、監督自身が受賞してしまった1968年の『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリックがある)。

 こういったその他もろもろ扱いを脱したのは、カテゴリーの名称が1977年に視覚効果賞(Best Visual Effects)とされてからだ。そして受賞作となった『スター・ウォーズ』('77)の影響で、映画業界全体における視覚効果への注目も大きくなる(貢献度の割に、その地位は低いままだが)。名称が変わっても、完全に特殊効果技術者が排除されてしまったわけではないが、モーション・コントロール・カメラやオプチカル・プリンターなどの視覚効果用機材が、とてもカッコよく感じられた。

 そして何度も受賞を繰り返した、ジョージ・ルーカス率いるI.L.M.のようなスタジオや、そこでスーパーバイザーを務めたリチャード・エドランド、デニス・ミューレン、ケン・ローストンらの名前がスター扱いされるようになっていく。

 特殊効果賞としてスタートして以来、オスカー受賞者の国はアメリカかイギリスのどちらかだった。だがその状況も21世紀に入って一変する。『ロード・オブ・ザ・リング』3部作('01~'03)と『キング・コング』('05)、『アバター』('09)で受賞したニュージーランドのWeta Digitalや、『ヒューゴの不思議な発明』('11)を手掛けたドイツのピクソモンド、さらに『ゼロ・グラビティ』('13)のフレームストアや、『インセプション』('10)、『インターステラー』('14)、『エクス・マキナ』('15)、『ブレードランナー 2049』('17)のダブル・ネガティブ(DNEG)、『ジャングル・ブック』('16)のMPCといった英国勢など、米国以外に本社を持つスタジオが多い。米国企業の受賞は、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』('12)のリズム&ヒューズ・スタジオの第85回が最後だが、授賞式の11日前に同社は倒産していた。

 こうなってしまった背景には、視覚効果におけるCGの比率が高まり、コンピューターとソフトさえあれば、世界中どこでもスタジオが作れるようになったことが関係している。そのため、多くの国や州が税制優遇でVFXスタジオの誘致合戦を繰り広げ、米国企業は圧倒的に不利になってしまったのである。

『レディ・プレイヤー1』

detail_190222_photo02.jpg© Warner Bros. Entertainment Inc.

 だが今年は、I.L.M.が『レディ・プレイヤー1』『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の3本でノミネートされており、久々に米国にオスカーが戻ってくる可能性もある(とはいえ、これらの作品に関わっているスタジオは多く、国籍も多様である)。また英国勢では、『ファースト・マン』のDNEG(現在はインド資本)や『プーと大人になった僕』のフレームストア(現在は中国資本)などもあって、オスカーの行方は予断を許さない。

文=大口孝之

[放送情報]

レディ・プレイヤー1
WOWOWシネマ 2/22(金) 深夜1:00
生中継!第91回アカデミー賞授賞式
WOWOWプライム 2/25(月) 午前8:30

TOPへ戻る

最新記事

もっと見る

© WOWOW INC.