2019/05/07 up

映画よりエキセントリック! 鬼才ロマン・ポランスキーのスキャンダラスな肖像

「ロマン・ポランスキー 初めての告白」5/16(木)深夜0:30他

『戦場のピアニスト』('02)で第55回カンヌ国際映画祭パルム・ドール、第75回アカデミー賞監督賞に輝いたロマン・ポランスキーは、その他にも、『チャイナタウン』('74)で第32回ゴールデン・グローブ賞監督賞、第50回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞(特別功労賞)、『ゴーストライター』('10)で第60回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)など華々しい受賞歴を誇っている。まぎれもない"巨匠"なのだが、半世紀以上にわたって築き上げてきたフィルモグラフィには彼にしか撮ることのできないエキセントリックな異色作がひしめいており、世界中の熱狂的なファンの支持を集める"鬼才"と呼ぶほうがふさわしい。

detail_190507_photo02.jpg『チャイナタウン』5/13(月)深夜1:30
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 想像力豊かなシナリオ・ライターさえも思いつかないくらい波瀾万丈の壮絶人生を歩んできたポランスキーは、作品の評価とはまったく関係ないところでマスコミの好奇の目にさらされてきた。このたびWOWOWで初放送される『ロマン・ポランスキー 初めての告白』('12)は、ポランスキー本人が長年の友人であるアンドリュー・ブラウンズバーグの質問に答える形で、悲運とスキャンダルにまみれた自らの人生を率直に語るドキュメンタリーである。

 1933年、パリに生まれたポランスキーは、3歳の時に両親の祖国ポーランドに移り住んだが、それは最悪のタイミングだった。まもなくナチス・ドイツがポーランドに侵攻し、ワルシャワの街は無残に破壊される。自分がユダヤ人だということもよく理解していなかった幼いポランスキーは、ゲットーでの過酷な生活を経験し、両親を強制収容所に連れ去られた。当時、ポランスキーが実際に見聞きしたおぞましい出来事の数々は、『戦場のピアニスト』で克明に再現されている。

 からくも戦争の時代を生き延びたポランスキーは、映画監督として唯一無二の才能を開花させていく。『吸血鬼』('67)で巡り合った若き美人女優シャロン・テートと1968年1月に結婚。同年夏に全米公開されたオカルト映画『ローズマリーの赤ちゃん』('68)も大反響を呼び、ハリウッドでの輝かしい未来が約束されていた。ところが、この人生において最も幸福だった時期に、何の前触れもなく第2の悲劇が降りかかる。米LAの自宅に侵入してきたカルト教祖、チャールズ・マンソン率いる一味によって、妊娠中の妻シャロンを惨殺されてしまったのだ。このときポランスキーは新作の準備のため英ロンドンに滞在していたが、このネタに群がったマスコミは憶測に基づくスキャンダル記事をこぞって書き立て、失意のポランスキーをさらなる絶望のどん底に突き落とした。

detail_190507_photo03.jpg『ローズマリーの赤ちゃん』5/14(火)深夜1:15
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 ナチスのユダヤ人狩りとカルト集団の狂気。この2つの惨事によって、ポランスキーが癒やしようのない心の傷を負ったことは想像に難くない。それは彼が手掛けてきた作品群の"作家性"としても色濃く表れている。ポランスキーが撮るスリラー映画の主人公たちは、常に孤立無援であり、逃げ場のない閉塞空間に押し込められ、心身共に極限の疲弊を強いられていく。今回『ロマン・ポランスキー 初めての告白』の放送に合わせてOAされる『ローズマリーの赤ちゃん』で、ミア・ファロー扮する妊婦の運命がまさにそう。異国での孤独、人間不信、現実認識やアイデンティティの崩壊といった、いかにもポランスキー的な主題が満載された異常心理劇『テナント 恐怖を借りた男』('76)では、彼自身が破滅的な主人公を演じている。これらのスリラーに渦巻く"真綿で首を絞める"ような迫真のサスペンス描写は、ポランスキーの実人生と濃密に結びついているのだ。エロティックな不条理コメディの怪作『ポランスキーの 欲望の館』('72)、ポランスキーが殺し屋役で強烈な印象を残す探偵ノワールの名作『チャイナタウン』と共に、ぜひ今回の特集で彼の特異な作風に触れてほしい。

detail_190507_photo04.jpg『テナント 恐怖を借りた男』5/15(水)よる11:45
©1976 by Marianne Productions, S. A.


detail_190507_photo05.jpg『ポランスキーの 欲望の館』5/16(木)よる10:30
©1972 COMPAGNIA CINEMATOGRAFICA CHAMPION - SURF FILM SRL ALL RIGHTS RESERVED.

 また『ロマン・ポランスキー 初めての告白』は、彼がハリウッドを離れ、米捜査当局のお尋ね者となったひとつの重大な出来事、1977年の未成年の少女への淫行事件についても言及している。カメラの前で神妙に罪を認め、被害者に謝罪の手紙を送ったというポランスキーは、現在の妻エマニュエル・セニエとの間に2人の子どもをもうけ、安らぎと幸せを取り戻した。そして近作『告白小説、その結末』('17)で健在ぶりを示したポランスキーは、ただいま19世紀末のフランスで起こった有名な冤罪事件、ドレフュス事件を題材にした次回作を製作中だ。この夏にはマーゴット・ロビーがシャロン・テートを演じるクエンティン・タランティーノ監督の新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』('19)が全米公開され、またしてもポランスキーの悪夢のような悲劇がメディアをにぎわすこと必至だが、当の本人はそんなことなどお構いなしに、85歳の今もなお挑発的な創造意欲を保ち続けている。

  • 高橋諭治
  • 文=高橋諭治
    純真な少年時代に恐怖映画を観過ぎて、人生を踏み外した映画ライター。世界中の謎めいた映画と日々格闘しながら、毎日新聞、映画.comなどで映画評を執筆している。


[放送情報]

チャイナタウン
WOWOWシネマ 5/13(月)深夜1:30

ローズマリーの赤ちゃん
WOWOWシネマ 5/14(火)深夜1:15

テナント 恐怖を借りた男
WOWOWシネマ 5/15(水)よる11:45

ポランスキーの 欲望の館
WOWOWシネマ 5/16(木)よる10:30

ロマン・ポランスキー 初めての告白
WOWOWシネマ 5/16(木)深夜0:30
WOWOWシネマ 5/30(木)深夜3:15


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