2019/06/11 up

時に事実はフィクションを超える! 嘘みたいなホントの話スポーツ映画編

「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」6/23(日) よる9:00 他

文=橋真奈美

 F1ワールド・チャンピオンに3度輝いたニキ・ラウダの訃報に接し、『ラッシュ/プライドと友情』('13)にも描かれた奇跡の復活を思い出す。1976年、瀕死の重傷を負ったサーキットでの事故からわずか6週間でレースに戻り、その年の最終戦でライバルのジェームス・ハントと世界王者の座を争ったのだ。ドライビングが冷静で私生活も真面目なラウダに対し、ハントはプレイボーイで走りは野性的。2人のキャラクターが対照的だったことが、ライバル関係を鮮烈なものにした。

 そんな名勝負の裏にあるドラマが映画では度々描かれる。テニスの世界にも、コート上での振る舞いが真逆のトップ選手同士が優勝を懸けて死闘を繰り広げた勝負がある。"アイス・マン"ビヨン・ボルグと"悪童"ジョン・マッケンローが対戦した1980年のウィンブルドン男子シングルス決勝だ。映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』('17)は、その決勝戦を物語のクライマックスに据え、そこに至るまでのそれぞれの軌跡を映し出している。

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 '80年当時、ウィンブルドン選手権4連覇中の24歳の美青年ボルグ(スウェーデン出身の人気俳優スベリル・グドナソンがボルグのカリスマ的な雰囲気を再現している)は、世間が「5連覇なるか?」と騒ぎ立てる中でも超然としている。しかし陰では敗北の恐怖や孤独感と必死で戦っていたことが、狂気に取り憑かれたように何事にも験を担ぐ姿や、死を連想させる心象風景から伝わってくる。さらに、元々は短気な性格でジュニア時代は試合中にキレることも多く、根底の部分ではマッケンローとさほど変わらないことも映画では明らかにされる。一方、マッケンローの生い立ちや心情はそれほど丁寧に掘り下げられていないが、審判に暴言を吐くなどの悪態(シャイア・ラブーフの芝居がとても自然!)の裏には、勝利することで厳しい父親に認められたいとの思いがあったことが分かり、悪童がいじらしく思えてくるのだ。

 決勝シーンは引きのショットが多めの淡々としたタッチで再現されるが、試合展開そのものがエキサイティングで、ぐいぐい引き込まれる。特に、攻防が延々と続く第4セットのタイブレークの場面からは、勝利まであと一歩に迫ったボルグと、ゲームを振り出しに戻したいマッケンローの静かな熱気と緊張感がひしひしと伝わってくる。

detail_190611_photo02.jpg『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』
©AB Svensk Filmindustri 2017

 実際は22分にも及んだ壮絶なタイブレークを含め、試合の全容は、『伝説のウィンブルドンテニス ボルグvsマッケンロー』(6月24日放送)で観ることができる。映画で表現された以上に無表情(!)のボルグと、焦りや安堵が顔や仕草には出るものの、意外にも最後まで紳士的だったマッケンロー。2人のドラマを映画で知ったうえで観ると、彼らの精神状態にまで思いを巡らせながら楽しむことができるだろう。

detail_190611_photo03.jpg『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』
©AB Svensk Filmindustri 2017

 マッケンローは現在、解説者として人気を博していて、穏やかになったとはいえ口が悪いのは変わっていない。2017年、「セレナ・ウイリアムズが男子ツアーに参加したら世界ランクは700位くらい」と発言して物議を醸し、「それなら、男子と女子が試合をしてみればいい」と言ってのけた。彼の提案による対決は実現していないが、男女対決自体は実は過去に行われたことがある。『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』('17)で描かれる、現役女子テニスの全米王者ビリー・ジーン・キング(エマ・ストーン)と、55歳の男子の元王者ボビー・リッグス(スティーヴ・カレル)が対戦した1973年のエキシビション・マッチだ。

detail_190611_photo04.jpg「伝説のウィンブルドンテニス ボルグvsマッケンロー」6/24(水) 午後0:20他
Getty Images

 この作品も、試合までの経緯が興味深い。男女同権運動が全米各地で起こっていた70年代、既にテニス界で活躍していたビリー・ジーンは、女子の大会優勝賞金を男子の8分の1とする全米テニス協会に反発し、女子テニス協会を設立する。その話題性に便乗してもう一度脚光を浴びようとするリッグスから対戦のオファーが舞い込むのだ。

detail_190611_photo05.jpg『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』6/30(日) よる9:00他
© 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

 本作は社会派ドラマの側面があり、トーナメントの途中で同性愛に目覚めたビリー・ジーンのロマンスもある。献身的な夫や、"男性優位主義のブタ"を自称するリッグスの立ち位置もユニークで、テニスではなく、男と女の関係について少し考えさせる作品になっている。

detail_190611_photo06.jpg『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
© 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

 最後に、世間を騒がせたスポーツ界の出来事として、'94年のリレハンメル五輪選考会会場で起きたナンシー・ケリガン襲撃事件は外せない。『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』('17)は、その首謀者と疑われたライバルの女子フィギュアスケート選手トーニャ・ハーディングの半生を追った伝記映画である。

 4歳でスケートを始めたトーニャはすぐに才能を発揮するが、教養も愛情もない毒母に罵倒され、若くして結婚した夫からはDVを受け、暮らしは常に貧しく、不憫で見ていられない。それなのに、トーニャ役のマーゴット・ロビーが第4の壁を越えて観客に話しかけてくる奇をてらった語り口のおかげで、作品はなんとなくコミカルな味わいになっている。肝心の"彼女は事件に関与していたのか否か"だが、この映画はトーニャ本人や逮捕された元夫、実行犯などの食い違う証言に基づいて製作されたものであるせいか、真実はいまだ藪の中である。

detail_190611_photo07.jpg『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』6/13(木) よる7:45他
©2017 AI Film Entertainment LLC

 政治やビジネスの世界よりも実力がシビアに問われるスポーツの世界には、常人の想像を超える壮絶なドラマがあり、時にはとんでもないスキャンダルが巻き起こる。スポーツ中継を見ているだけでは知りようのない驚きや興奮を味わえるのはもちろんだが、たまには困惑させられるのも、実録スポーツ映画の面白いところかもしれない。

detail_190611_photo08.jpg『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』
©2017 AI Film Entertainment LLC

  • 文=橋真奈美
    情報誌の映画ページの編集を経てフリーライターに。雑誌、WEB等で作品紹介やインタビュー記事を執筆中。ドッキリ系ショック演出が苦手なのにスリラー好き。

[放送情報]

ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男
WOWOWシネマ 6/23(日) よる9:00
WOWOWプライム 6/27(木) よる8:00
WOWOWライブ 7/7(日) 午後4:50
WOWOWシネマ 7/18(木) 午後4:55


伝説のウィンブルドンテニス ボルグvsマッケンロー 1980男子シングルス決勝
WOWOWライブ 6/24(月) 午後0:20
WOWOWライブ 7/7(日) よる6:55


伝説のウィンブルドンテニス ボルグvsマッケンロー 1981男子シングルス決勝
WOWOWライブ 6/24(月) 午後4:50
WOWOWライブ 7/7(日) よる11:30


バトル・オブ・ザ・セクシーズ
WOWOWシネマ 6/30(日) よる9:00
WOWOWプライム 7/3(水) よる7:45
WOWOWシネマ 7/11(木) 午後2:55


アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル
WOWOWプライム 6/13(木) よる7:45
WOWOWシネマ 6/20(木) 午後3:00
WOWOWシネマ 7/10(水) 午前9:00
WOWOWプライム 7/31(水) 深夜3:15


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