2020/01/28 up

俳優はどこまで実在の人物に近づけるのか? スター成り切り列伝

「バイス」2/9(日)よる9:00他

文=前田かおり

 今年もいよいよ間近に迫って来たアカデミー賞。いつの頃からか、実話ベースの作品が賞レースをにぎわせ、実在の人物を演じ切った俳優たちがオスカーを手にする傾向が強くなっている。昨年も『ボヘミアン・ラプソディ』で、ラミ・マレックが伝説のバンド、クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリー役に命を吹き込み、見事初ノミネートで主演男優賞を受賞した。

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 WOWOWでは、スター俳優たちの渾身の演技を楽しめる作品をラインナップ。これを機に、壮絶な肉体改造に挑み、綿密なリサーチと役作り、そして特殊メイクを駆使して実在の人物に成り切った彼らの俳優魂を振り返ってみたい。

detail_200128_photo02.jpg『ボヘミアン・ラプソディ』2/3(月)午後5:00他
© 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

 まず当代きっての成り切り俳優といえば、クリスチャン・ベール。フィクションの人物ながら、『マシニスト』('04)で29㎏も減量して謎の不眠症に悩む主人公を演じたり、"ダークナイト・トリロジー"('05~'12)では逆に増量してマッチョな体を作ってみたり...。必要とあらば、体重を増減させることなどいとわないベール。ドラッグに溺れた元ボクサーを演じた『ザ・ファイター』('10)では頭髪に加えて歯も抜いた。今回、WOWOWで初放送される『バイス』('18)で彼が演じたのは、ジョージ・W・ブッシュ政権下で米国史上、副大統領として最も権力を持ったといわれるディック・チェイニー。巨漢のチェイニーに成り切るため、ベールは体重を18kg以上増量し、頭髪が寂しい実物に似せるため、髪を剃り眉毛は脱色。さらに、肌の色やしわを再現するため、メイクには毎回5時間もかけたという。その過酷な役作りには驚くばかりだが、奏功して、第91回アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされた。ちなみにベールは、「劇的な体重増減による役作りはそろそろ限界、もうやらない」などと発言しているが、今年、第92回アカデミー賞作品賞にノミネートされている『フォードvsフェラーリ』('19)では、1960年代に活躍したレーサーを演じるためにまた大幅に減量。こうなると、ベールの劇的な体重増減による役作りは、やらずにはいられない俳優の性(さが)なのかもしれない。

detail_200128_photo03.jpg『バイス』
©2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

 役作りが半端ではない俳優といえば、ダニエル・デイ=ルイスも忘れられない。彼が初めてアカデミー賞主演男優賞を受賞した、実話が基の『マイ・レフトフット』('89)では脳性小児麻痺の画家に扮するため、撮影中、普段の生活でも左足だけを使い、車椅子に座ったまま過ごしていたという。『リンカーン』('12)では1年間かけて役作り。妻役のサリー・フィールドと南北戦争末期当時の書体で4カ月間文通、そして外見を似せるために髪も髭も伸ばして準備し、合衆国大統領で高潔たる偉人エイブラハム・リンカーンを演じて、3つ目のオスカー像を手にした(2度目の受賞は2007年製作の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』)。

detail_200128_photo04.jpg『マイ・レフトフット』2/3(月)午後1:00他
©Ferndale Film Ltd / ITV Studios Limited 1989

detail_200128_photo05.jpg『リンカーン』2/3(月)よる11:00他
© 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation and DreamWorks II Distribution Co., LLC. All rights reserved.

 そんなデイ=ルイスの俳優引退作となった『ファントム・スレッド』('17)と競って『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』('17)で第90回アカデミー賞主演男優賞を受賞したのが、ゲイリー・オールドマンだった。オールドマンも徹底した役作りから、カメレオン俳優といわれてきた。とはいえ、英国首相ウィンストン・チャーチルを演じるには顔形が全く似ても似つかない。そんなオールドマンにオスカーをもたらしたのが辻一弘(現、改名してカズ・ヒロ)。多くのハリウッド映画に関わり、特殊メイクの第一人者として活躍しながら映画界を引退していた彼に、「あなたが引き受けないなら、僕も映画に出ない」とオールドマンが口説き落とした。結果、オールドマンは現場に4時間も早く来て、メイクに毎日3時間半、衣装を着るのに30分かけてチャーチルに成り切った。そして辻も本作で、第90回アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した。

detail_200128_photo06.jpg『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』2/2(日)よる9:00他
© 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

 2020年、第92回アカデミー賞で、まさにその辻がメイクアップ&ヘアスタイリング賞でノミネートされているのが、『スキャンダル』('19)だ。米大手TV局FOXニュースで実際に起きた創立者兼CEOと女性キャスターたちとのセクハラを巡る騒動を描いている。主演は『モンスター』('03)で、2002年に死刑が執行された連続殺人犯を演じてオスカーを獲得しているシャーリーズ・セロン。彼女のご指名を受けた辻がキャスター本人とそっくりに仕上げており、セロンは2度目の主演女優賞を狙っている。ほか、『ジュディ 虹の彼方に』('19)で往年の大女優ジュディ・ガーランドに扮したレニー・ゼルウィガーも主演女優賞にノミネート。主演男優賞では『2人のローマ教皇』('19)のジョナサン・プライスが実在の人物を演じている。果たして、新たな"成り切り列伝"に名を残すことになるのは誰だろうか。今から楽しみだ。

文=前田かおり
映画、海外ドラマ・ライター。「日経エンタテインメント!」「DVD&動画配信でーた」「SCREEN」ほか情報誌、WEBなどで執筆中。また「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」に寄稿。


[放送情報]

ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
WOWOWシネマ 2/2(日)よる9:00
WOWOWプライム 2/6(木)よる8:50
WOWOWシネマ 2/13(木)午後2:45


マイ・レフトフット
WOWOWシネマ 2/3(月)午後1:00
WOWOWシネマ 3/9(月)よる9:00


ボヘミアン・ラプソディ
WOWOWライブ 2/3(月)午後5:00
WOWOWシネマ 2/9(日)よる6:40
WOWOWライブ 3/15(日)午前9:55


リンカーン
WOWOWシネマ 2/3(月)よる11:00
WOWOWライブ 2/17(月)午前7:25
WOWOWシネマ 3/12(木)よる9:00


バイス
WOWOWシネマ 2/9(日)よる9:00
WOWOWプライム 2/13(木)よる7:45
WOWOWシネマ 2/20(木)午後2:45

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