「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」3/24(土)深夜2:00
『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』について
映画は幻想を作り出すものだけど、
作る人間自身は幻想を持つべきじゃない
だから結果的にいい方向に行った。映画を作ることに関してあらゆる幻想がなくなったから。映画に本家も分家もありゃしないんです。いろんな映画があるだけなんだっていうね。別にハリウッドが一番偉いわけでもなんでもない。ハリウッドで映画を作るっていうことに関しては、ハリウッドで仕事をしている人間でなければ分からない限界もある。逆に言えば、僕が今まで作ってきた作品は、おそらくどれひとつとして向こうでは成立しなかったはずだから。
監督としてここまでいわば自由自在に、わがまま放題作るってこと自体が、ハリウッド流ではない。そうなるには文字通り力でねじ伏せる必要がある。具体的に言えばプロデューサーになるしかないんであって、金銭の調達に至るまで全部やらない限り、まあ(ジェームズ・)キャメロンがそうであるように。自分の作品を作るっていう作業が成立しない。どっちがいいんだっていう話ですよね。いろんな物理的な制約とか、主に予算の制約だったりとか、市場の大きさだったりとか、実は同じことなんだけれども。ある意味、日本でつつましく作るけれども、自分が思うさま仕事をすることを選ぶべきなのか、ある程度大きな仕事をするために、どこかしら自分がやりたいことを譲るべきなのかとか、必ずジレンマがあるわけですよ。自分っていう監督は、どう考えても向こうで監督としてハマらないってことが、数回目に行って仕事をしかけて、割とすぐに分かっちゃった。それは自分にとってすごくいいことだと思った。僕は、映画は幻想を作り出すものだけど、映画を作る人間自身は幻想を持つべきじゃないと思ってるから。そういう、映画に要らない幻想を持つ必要がなくなったという意味では、『GHOST IN THE SHELL』っていう作品でいろいろ海外の引き合いがあったっていう経験は無駄じゃなかった。その後、監督として仕事をする上で大きな示唆になった。大きな経験をさせてもらったと思ってますね。
「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」©1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT
既存の方法論で、デジタル映画をイメージして
作ったというのが正確な言い方だと思う
作品そのものはね、実は僕に言わせればアニメーションとしては新しいことは何ひとつしていない。何ひとつしてない。自分が既に知っている方法論と技術だけで作り出した、どちらかといえばつましい作品ですよ。予算的にもその後僕がやったアニメーション作品の、まあ半分以下だったし、制作期間も短かかった。たしか10カ月くらいで作ったと思う。ただその代わり、無駄なことは何ひとつしなかった。そういう意味では制作現場はかつてないくらいに整然と、スケジュール通りに進行して、だから完成度も高くすることができたわけだけど、それはもともと高望みしていなかったからですよ。分かっている技術だけでどうやって新しいものを作ろうかっていうね。世間ではデジタル・アニメーションの先駆けっていうことになってるんですが、実はデジタルの部分なんて2割くらいしかない(笑)。想定されているデジタル映画の雰囲気を先取りしただけなんですよ、言ってみれば。イメージとしてのデジタル映画は成立させられたけど、映画の本体そのもの、正体そのものは依然として、ただのセル・アニメーション。CGを使ったカットなんて30くらいしかない。そういう意味で言えば、演出的に作り出したデジタル映画であって、本当の意味ではデジタルで制作したわけでは決してない。どちらかといえば非常に伝統的な手法で全て作り出したというかね。だから古臭い方法論で、あり得る映画をイメージして作ったっていうのが正確な言い方だと思う。そういう意味で『イノセンス』と対照的だと言えるかもしれない。
『イノセンス』は文字通り、映画を成立させる土台の部分から、全てを革新した映画。だから大変な苦労をした。『GHOST IN THE SHELL』っていう1本目の作品は、僕としては『機動警察パトレイバー 劇場版』の半分くらいの苦労で済んだっていうか、全然楽チンでした。なぜ楽チンかというと、分かっている方法論しか使わなかったってことと、全てのパートにおいてスタッフが非常に優秀だったということ。なおかつ『パトレイバー』を2本制作したっていう経験値全てがそこに残っていた。要するに現場が成熟していたんですね。絵コンテを切り、レイアウト・チェックが終わった段階で、ほぼ映像的な作業は僕の中ではほぼ終わった。後は現場は何も言わずに自動的に転がっていったっていうかね。時々介入するだけで、『そっち行っちゃダメ』とか、『それ以上走っちゃダメ』とかちょっとした、微妙なコントロールをするだけで、後は自動的に転がっていった。
だから『GHOST IN THE SHELL』っていう作品をやっていた時の現場の記憶って、半分くらいゲームセンターにいた(笑)。結構暇だったし。現場でもゲームが大流行だったので、「バーチャファイター」っていうゲームですけど。サボってゲーセンに行ってる作画監督を回収しに行ったりとかですね、そういう思い出しかない(笑)。後は現場が辛うじて青春の尻尾が残っていた時代だったので、皆でよく食事に行きましたね。というか皆よく食べた。3時のおやつにホカ弁食べてたから。また夕飯をそろって食べに行って、食事をした後に必ずゲーセンに寄って、必ず3時間くらい遊んだ。それからスタッフはスタジオに戻ってまた仕事を始め、僕はそのまま家に帰った。というふうな日々でしたね。
ひとつだけ、映像的な冒険っていうのは実はそれほどしていないんだっていう話はさっきしましたが、音楽的にはかつてないくらい、僕からすればかなりの冒険をしました。これはもちろん川井憲次っていう相方がいて初めてできることなんだけれども、いろいろな無理難題を吹っ掛けました。だからそういう意味では、音響作業においては川井くんとこれほど濃密に仕事をしたことはないんじゃないかっていうくらい、ある意味で言えば2人で作り上げたっていう実感が持てた、音楽の作業でしたね。とにかく楽しかった。どういう音楽になるのか、2人そろってああでもないこうでもないって探りながら。まず太鼓を叩いてみようかって、そこから始めた。川井くんが素晴らしいアイデアマンであり、メロディ・メーカーであり、優れた方法論の持ち主でありという。だから川井憲次っていう相方がいなかったら、多分『GHOST IN THE SHELL』っていう作品は、ああいうふうにならなかったと思う。あの声に出会ったっていうね。まあ民謡を歌ってらっしゃるおばさんたちでしたけど、あの声との出会いが全てだった」
草薙素子というキャラクターが全て
映画の見どころですか? うーん...どうしても自分の映画を語るっていうのは、なかなか難しいというか、本当のことを言うと僕は自分の作品について、本当に正直にしゃべったことなんか一回もない(笑)。僕は平気でつい言っちゃうけど、映画監督さんだったら誰でもどこかしらそういうところがある。語れないんですよ。自分にとってこの作品がどういうものだったのか、語るのにすごい時間がかかる。自分でも分からないんですよ。作った当初は自分の作品なんだけど、どういうものなのかよく分からない。子供みたいなもんですよ。10年後にどういう子供になっているのか、誰も予想できない。こうなってほしいな、っていうだけで、でも大体違うから。だから「見どころはどこですか?」とよく聞かれるんですが、ふた通りなんですね、皆さんおっしゃるのは。「全部です」か、「あえて言えば...」と答えるか(笑)。「あえて言えば」って言った時点でウソなんですよ。だから、ものすごく答えにくい質問の筆頭なんです。「テーマは何ですか?」って聞かれるのくらい、つらい質問はないんです、実は。見どころは、よく分からない。自分で作ったからこそよく分からない。全てのシーンに思いが入っているし、ここは肝だと思ったところは意外に決まらなかったりとかですね。特に映画っていうのは偶然の産物っていう側面も大きいので、思いもよらぬところで映画の神様が微笑んだっていうね、そういうこともあったりする。
ただ、言ってみれば『GHOST IN THE SHELL』は、それこそ今だから思うんだけれど、主人公です。草薙素子というキャラクターが全てだと言ってもいい。まあ公開した当時は世界観がどうたらこうたらってことが取り沙汰されたし、特に海外で。要するにサイバーパンクって話だけど、ネットの世界を先取りしたとかね、世界観が主に評価された。今思うのは、やっぱりなんだかんだ言ってもね、映画っていうのはキャラクターですよ。『GHOST IN THE SHELL』っていうのは、間違いなく草薙素子っていうヒロインの映画なんであって。
もうずいぶん時間が経って、一昨年だったか、去年だったかな、ハリウッドで製作された(実写版の)『ゴースト・イン・ザ・シェル』の時に、現場に来ませんかっていうお誘いがあって1日だけ行ったんですけど、スカーレット(・ヨハンソン)に会った瞬間そう思った。「やっぱりこれは素子の映画なんだ。そうあるべきなんだ」って。結果としてそうなったし、全然僕の映画とは違うんだけど、スカーレットの素子っていうのは、僕は本当に素晴らしいと思ったし、まあ言っちゃえば、あの映画自体がスカーレットの映画だって言えばその通りなので。僕としては痛快でした。監督さんには申し訳ないけれど(笑)。
『イノセンス』について
主人公の不在を描いた世界
すさまじい映像を作り出すっていう作業に関しては。だから存分にやりました。その分だけ、今から見ればね、不思議な映画になった。ストーリーって呼べるものがほとんどない(笑)。まあ、言っちゃえば2週間で書いた本ですから。2週間で書いた。内実を言えば1週間で書いた。もっと言えば本気で仕事をした期間、実際にキーボードをたたいていたのは多分3、4日だと思う。なぜそういうのができたのか、それは最初からそういう思いがあったから。こういう時にしかできないことをやろうと思った。石川(プロデューサーの石川光久)にとっては不幸だったかもしれない。「ちゃんとすごい映画になるんだよね?」って言うから、「俺を信じろ」って。結局完成した後で石川泣いてたからね。なぜ彼が泣いたのかといえば、可能性としていくつか考えられる。"こんな大金かけて、こんなもの作りやがって"っていうのがひとつ。2つ目はとにかく苦労を思い出して泣けた。3つ目は、多分これはあり得ないんだけど中身に感動して泣いたっていう。考えたくないから、どれなのか考えないように決めたんだけど、珍しく石川がね、涙を流した。それが一番記憶に残ってるかな。僕自身としてはとにかくやり切ったというか、出し切ったというかね。こういう中身の映画で、これだけのお金を使って、これだけの映像と音響を作り出したっていうね。音響的にも、もう2度とやれないことをいっぱいやったから。オルゴールの音を録るだけで石切り場をひと晩借り切って、機材を全部持ち込んで、1曲のためだけに。映画って、そうやって贅沢に作らなきゃいけない映画もあるんだよっていうね。いつものようにちまちまと、知恵と勇気でやるだけじゃなくて、贅沢にお金を使い倒して、ほんのひとつの成果を得る。これも映画の作り方だっていう。生涯に何度もあることじゃない、そういう思いで作った映画ですよね。
「イノセンス」©2004 士郎正宗/講談社・IG,ITNDDTD
今回は僕が監督した映画7本を連続してご覧いただける、珍しいことです(笑)。
映画監督にとって何より一番幸せだと思うのは、それは自分の作品がまだ世の中で必要としている人がいる、見てもらえる。それ以外にないです。成功、不成功はあったとしても、映画監督として一番望ましいことは、自分の作品がまだお蔵に入っていない、まだ寿命が消えていない、まだ見て面白がってくれる人がいるっていうことが、一番の幸せだと思います。こういう機会を与えてくださったWOWOWさんに感謝します。
また、最後までご覧になってくださった方々にも感謝します。ありがとう。
「特集:闘う押井守」。ぜひ最後までお楽しみください。よろしくお願いします。
<第三弾は『ガルム・ウォーズ』『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』について>
[放送情報]
『特集:闘う押井守』
WOWOWシネマ 3/24(土)~25(日)
『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』
WOWOWシネマ 3/24(土)深夜2:00 ほか
『イノセンス』
WOWOWシネマ 3/24(土)深夜3:30 ほか
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