2019/02/27 up

演技の振り幅はどこまでも! 涙も笑いも人情も、阿部寛にお任せあれ

「空海―KU-KAI―美しき王妃の謎」3/9(土)よる8:00

『のみとり侍』

detail_190227_photo02.jpg©2018「のみとり侍」製作委員会

 チェン・カイコーが監督を務めた日中合作の超大作映画『空海―KU-KAI―美しき王妃の謎』('18)で物語のカギを握る阿倍仲麻呂を貫禄たっぷりに演じたのに続き、HBOアジア製作の映画『The Garden of Evening Mists』(夕霧花園)で英語セリフに挑戦。阿部寛は54歳にして、いよいよ海外に本格進出する。

 いまや日本を代表する俳優となった阿部だが、その道のりは思いのほか順風満帆ではなかった。モデルとしてキャリアをスタートさせ、『はいからさんが通る』('87)でいきなり南野陽子の相手役に抜擢。俳優デビューこそ華々しく飾ったものの、その後は189cmの長身と甘いマスクが逆に足を引っ張り、来る役は薄っぺらな二枚目ばかり。本人のモチベーション低下と比例するように仕事も先細っていく。

 転機となったのは1993年、つかこうへい作&演出の舞台『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』だった。好青年のイメージをかなぐり捨て、阿部はバイセクシャルの刑事役を熱演。演者を追い込む厳しい稽古で知られるつかのもと、彼は演じることの奥深さを改めて知り、同時に難しい役を演じる喜びを肌で感じ取った。そして以降は苦労を承知の上で、あえて難しい役に挑むことを変わらずに貫いてきた。また、同時期の『凶銃ルガーP08』('94)ではバイオレンス・アクションに、『大阪極道戦争 しのいだれ』('94)ではやくざ映画にも挑戦。男性ファンをつかむとともに、同年の日本映画プロフェッショナル大賞の特別賞を受賞するなど一部で高い評価を受けた。

 脇役を中心に地道な活動を続ける中、二つ目の転機となったのが2000年にスタートしたTVドラマ『トリック』だった。自信過剰で態度は大きいくせにヘタレな自称天才物理学者、上田次郎を嫌みにならないギリギリのラインで演じ、一気にブレイクする。主人公、山田奈緒子に扮した仲間由紀恵との絶妙なやりとりは、全編にちりばめられた小ネタも相まって熱い支持を獲得。シリーズは断続的に2014年まで続くこととなる。同じくTVドラマでは『結婚できない男』('06)で偏屈かつあまのじゃくな変人建築家を軽妙に演じ、こちらも当たり役となった。

 このように、コミカルな演技で名を上げたとはいえ、もちろん彼の魅力はそれだけにとどまらない。正統派人間ドラマの代表格といえるが、是枝裕和監督とタッグを組んだ『歩いても 歩いても』('08)と『海よりもまだ深く』('16)だ。いずれも樹木希林が母親役、阿部が息子役というキャスティングながら、それぞれが異なる母子像を巧みに演じ分けて見応え十分。前者では15年前に死んだ優秀な兄と比較されて育ち、積年の鬱屈を抱えている上に現在は失業中の中年男性を悲哀を交えて表現。また後者では、ひとり団地で暮らす老いた母に金の無心に来た挙げ句、みっともなくも別れた妻に復縁を迫る作家崩れの探偵を軽やかに演じてみせた。また、東野圭吾の人気小説を映像化した"加賀恭一郎シリーズ"では、人情に厚い主人公の刑事を確かなアプローチで演じて存在感を発揮。2010年の連続ドラマ『新参者』で幕を開けたシリーズは、2作のTVスペシャルを経て『麒麟の翼 ~劇場版・新参者~』('12)、『祈りの幕が下りる時』('18)へと続き、阿部にとっては息の長い代表作の一つとなった。

 現代劇だけでなく『のみとり侍』('18)などの時代劇でもその世界観にしっかりと溶け込む阿部。そんな彼のコスチューム・プレーにおける快作といえるのが、ヤマザキマリの人気コミックを映画化した『テルマエ・ロマエ』('12)&『テルマエ・ロマエII』('14)だ。阿部が演じたのは古代ローマの建築技師ルシウス。そもそも古代ローマ人を、阿部をはじめとする濃い顔の日本人俳優が日本語で演じるという破天荒な作品なのだが、それを有無をいわさずに見せ切ったキャスト&スタッフ陣の力技の勝利といえよう。古代ローマと現代日本の間でタイム・スリップを繰り返す阿部のオーバーアクション気味の芝居も、ここでは違和感なくハマっている。インパクトの強さでは、パンチパーマでちゃぶ台をひっくり返す『自虐の詩』('07)と双璧だ。

 コミカルとシリアスはもとより、動と静、硬と軟といった相対する要素を、阿部は自在にコントロールしているように見える。しかしながら本人も認める通り、阿部は決して器用な俳優ではない。だからこそ作品ごとに真剣に役に向き合い、試行錯誤の末にそれを自分のものにしてきたのだ。名だたる監督たちがこぞって阿部との仕事を望む理由は、彼の演技に対する真摯な姿勢にあるのかもしれない。

文=佐々木優

[放送情報]

祈りの幕が下りる時
WOWOWプライム 3/2(土) よる8:00

空海-KU-KAI-美しき王妃の謎
WOWOWシネマ 3/9(土) よる8:00

麒麟の翼~劇場版・新参者~
WOWOWシネマ 3/16(土) 午前9:15

のみとり侍
WOWOWシネマ 3/30(土) よる10:00

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