「グーニーズ」3/8(金)午後2:45
ジョシュ・ブローリン51歳。押しも押されもせぬ売れっ子だが、ハリウッドのトップ・スター――ではない。近年、とりわけ2007年以降の活躍が目覚ましく、幾多の傑作&話題作に起用されている。しかしながら、主演作もあるものの、ブローリンはあくまでもサブ的な役回りで光り輝くことが多い。とはいえ器用なカメレオン役者ではない。ほとんどの出演作において、ブローリンは持ち前のこわもてキャラとして岩石のように画面に映っているのだ。その点において、まるでセルフ・イメージを崩さない大スターのようなのだ!
ブローリンがデビューしたのは1985年の『グーニーズ』で17歳の時。"グーニーズ"というチーム名の少年たちの冒険を描いた痛快作だが、ブローリンが演じていたのは"グーニーズ"のメンバーではなく、冒険に巻き込まれる、主人公のお兄ちゃんの役だった。主要人物のひとりではあるのだが、タイトル・ロールの"グーニーズ"には入れてもらえていないというちょっと脇扱いのポジションが、その後のブローリンのキャリアを予見していたようで面白い。
冒頭に「2007年以降」と書いたのは、同年にブローリンがコーエン兄弟の『ノーカントリー』に出演して、一躍ハリウッドの重要人物に躍り出たから。同作は第80回アカデミー賞で作品賞など主要4部門を独占。ただしストーリー上では主人公だったはずのブローリンではなく、ブローリンを追い詰めるオカッパ頭の殺し屋を怪演したハビエル・バルデムが目立ちまくり、バルデムはアカデミー賞助演男優賞を受賞。クレジットの序列も、保安官役のトミー・リー・ジョーンズが一番でバルデムが二番。ブローリンは三番手に甘んじるしかなかったのである。
しかしブローリンの快進撃が始まったのも『ノーカントリー』と同じタイミングだった。『アメリカン・ギャングスター』('07)ではリドリー・スコット監督と組みデンゼル・ワシントンとラッセル・クロウと共演。『ブッシュ』('08)ではオリヴァー・ストーン監督と組んでジョージ・W・ブッシュ元大統領に成り切り、『ミルク』('08)ではガス・ヴァン・サント、『恋のロンドン狂騒曲』('10)ではウディ・アレンと、大物監督たちとのコラボが相次いだ。
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ただし、珍しく単独主演の『ブッシュ』では、特殊メイクで外見をジョージ・W・ブッシュに近づけたためにブローリンがどうかすらも気付きづらく、珍しくアクション大作の主演に抜擢された『ジョナ・ヘックス』('10)は批評、興行ともに振るわずに黒歴史として扱われ、気が付けばブローリンは、そのクセのある風貌で、出演者の序列の二番手、三番手あたりにデンと構える、誰よりも頼りになる"最強の兄貴"になっていたのである。
『デッドプール2』('18)では主人公デッドプールの敵か味方か分からない謎の男ケーブル役、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』('18)ではアベンジャーズの最強の敵サノス役を務めるなど、マーベル系のスーパーヒーロー映画で2つの異なる役を演じているのも、いかにブローリンが引っ張りだこであるかの証拠といえる。
しかしそれでもブローリンにはどこか不器用な印象が離れない。こわもての警官、こわもての捜査官、こわもての政治家、こわもての投資家、こわもての脱獄犯。常に苦虫をかみつぶしたような顔で周囲に圧を与えるのが持ち味なのだが、ここまでイメージがブレないのは役者としていかがなものか。そもそもブローリンはなぜ、ここまでの売れっ子になれたのか? いや、実は金太郎飴のように一貫したキャラにこそ、ブローリンの底知れなさが宿っている。
というのも、『アメリカン・ギャングスター』の汚職警官から『L.A.ギャングストーリー』('12)の熱血刑事、『ブッシュ』のアメリカ大統領から『ミルク』の小物政治家、『とらわれて夏』('13)の大人のロマンスから『恋のロンドン狂騒曲』の浮気夫まで、ブローリンは大抵のポジションにするっとハマってしまうのである。クセがあるようで無色、不器用なようで汎用性が高い。大物監督たちの信頼が厚いのも納得の不思議なスキル。考えたらほかに似たポジションの人間が思い付かない、唯一無二の男ジョシュ・ブローリンにますますのご注目を。
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文=村山章
1971年生まれ。雑誌、ウェブ、劇場パンフレット等に映画評やインタビュー記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。
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