「のぼうの城」11/4(月・休)午前11:30他
文=佐々木優
群雄割拠の武将たちが天下統一を目指し、激しい火花を散らした戦国末期(安土桃山時代)は、同じく時代の大転換点となった幕末と並び、いつの世も人々のロマンをかき立ててきた。歴史にそれほど興味がない人にとっても、織田信長や豊臣(羽柴)秀吉、徳川家康らが残した数々の業績は、教科書はもとより、多くの文学&映像作品で一度は触れたことがあるに違いない。
そんな英傑たちの波乱に満ちた生涯やその家臣らの奮闘などを、戦国末期から江戸時代が舞台の時代劇を関連付けて観ることで、たとえ歴史に明るくない人でもすっきり理解できるだろう。もちろん映画であるから多分にデフォルメはあるものの、彼らがどんな人物で何を為したのか、そして歴史はいかに動いたのかをエンタメ作ならではの視点で面白く学べるはずだ。
秀吉の覇権を決定づけた『清須会議』
大の歴史好きとして知られ、大河ドラマで『新選組!』('04)と『真田丸』('16)の脚本を手掛けた三谷幸喜監督の『清須会議』('13)の舞台は1582年。天下人となった信長は、信望も厚かった家臣、明智光秀の謀反に遭い本能寺で非業の死を遂げる。信長の腹心、秀吉はすぐさま光秀を討って敵を取るが、織田家の今後に向けて残務整理をしなければならない。
会議を行なうため清須城に参集したのは信長の重臣、柴田勝家、丹羽長秀、池田恒興、そして秀吉の4人(滝川一益は欠席)。表向きの議題は織田家の家督相続問題と領地の配分だったが、秀吉たちにとっては次なる足場固め、勢力図の書き換えの場にほかならなかった。
『清須会議』11/4(月・休)午後2:00
©2013フジテレビ 東宝
大泉洋演じる抜け目のない策略家の秀吉は、後継ぎとして信長の二男の信雄(妻夫木聡)を推し、役所広司扮する粗野で無骨で暑苦しいほどに馬鹿正直な勝家は三男の信孝(坂東巳之助)を推し、両陣営は対立。秀吉、勝家双方共に、優柔不断でどっちつかずの恒興(佐藤浩市)らを取り込もうと腹を探り合い、懐柔作戦を繰り広げる。三谷作品としてはコメディ要素は薄めだが、曲者ぞろいの登場人物たちによる人間味丸出しのドラマが堪能できる。
天下人、秀吉に抵抗した『のぼうの城』に観る武士の意地
天下統一まであと一歩に迫った秀吉は、1590年、関東平定に出陣。一方、秀吉の小田原征伐に対抗する北条氏政は、関東各地の支城に籠城しての徹底抗戦を命じる。その支城のひとつが、成田氏の本拠である忍(おし)城だった。
秀吉に忍城攻めの大将を任じられた石田三成率いる2万人の大軍勢に対し、成田氏側の手勢はわずか500人という圧倒的な劣勢。しかも忍城総大将の成田長親は、普段から農作業などで領民と交わり、彼らから「でくのぼう」転じて「のぼう様」と揶揄される、武将らしからぬ頼りない男。映画『のぼうの城』('11)ではそんな長親が、弱者ならではの戦法で強大な豊臣勢を翻弄していくさまが痛快に描かれる。
つかみどころのない長親をひょうひょうと演じたのは野村萬斎。犬童一心と共同監督を務めた樋口真嗣による合戦シーンは見応えたっぷりで、なかでもVFXを駆使した「水攻め」のシーンは圧巻だ。映画は和田竜のノベライズ共々、一般にはあまり知られていなかった、天下人秀吉に抗った実在の戦国武将の存在を広く知らしめることとなった。
『のぼうの城』
©2011『のぼうの城』フィルムパートナーズ
家康に敗れた敗軍の将の生きざまに迫る『関ヶ原』
天下統一を成し遂げた秀吉は1598年に世を去る。豊臣家の家督を継いだのが幼い秀頼だったため、実質的な政権運営は五奉行や五大老らが担っていたのだが、やがて権力闘争が勃発。時代は天下分け目の関ヶ原の戦いへと一気に突き進んでいく。
1600年のこの戦いは、簡単に言えば石田三成を中心とする豊臣側の西軍と、徳川家康をトップに頂く東軍の戦いである。三成といえば『のぼうの城』でもそうであったように、敵役や悪役として描かれることが多い人物だが、映画『関ヶ原』('17)ではその三成を主人公に据え、己が信じる「義」を貫いた彼の生き様に焦点を当てる。
脚本も手掛けた原田眞人監督は、司馬遼太郎の全3巻からなる大著から巧みにエッセンスを抜き出し、独自の解釈も交えながら関ヶ原の戦いへと至る武将たちの濃密な人間ドラマを構築。リアリティを追求した合戦シーンはもとより、三成役の岡田准一、そして特殊メイクの太鼓腹で家康役に挑んだ役所広司の熱演も必見だ。
『関ヶ原』11/4(月・休)午後4:30他
©2017「関ヶ原」製作委員会
巧妙な人質戦略(?)を描く『超高速!参勤交代』シリーズ
徳川幕府の成立によって長く続いた戦乱の世が終わり、ようやく訪れた天下泰平の江戸時代。武士たちにとっては戦のない安寧な日々かと思いきや、その裏には別の戦いがあった。そのひとつが、幕府が諸藩の謀反を抑え込むために敷いた巧妙な人質戦略でもある参勤交代で、『超高速!参勤交代』('14)と続編『超高速!参勤交代 リターンズ』('16)は、そんな参勤交代をテーマにした作品だ。
両作共、舞台となるのは、1735年、陸奥国磐城の湯長谷藩。石高わずか1万5000石の吹けば飛ぶような小藩に「5日で江戸に参勤せよ」との無理難題が課せられる。理不尽とは思いつつ、お上には逆らえない藩主一行は総勢7名で出立し、時間がないために走って山越え&ショートカットの強行軍を強いられるなど悪戦苦闘。おまけに、湯長谷藩にはお金がない。かといってみっともない大名行列を披露するわけにはいかず、一行は関所や宿場といった要所要所で行列を立派に見せるべく、あの手この手の偽装工作を繰り出していく。
『超高速!参勤交代』11/4(月・休)よる7:00他
©2014「超高速!参勤交代」製作委員会
武士を主人公にしながら、藩主の内藤政醇を演じた佐々木蔵之介らが話すいわき弁をはじめ、藩士たちの涙ぐましい努力や宿場の"飯盛女"との交流から見えてくる世界はあくまで庶民的で、思わずほっこりさせられる。サービス精神満点な道中のチャンバラも見逃せない。コメディ色の強い作品だが、徳川300年の栄華の下地をつくった参勤交代というシステムが理解できる異色の時代劇だ。
『超高速!参勤交代 リターンズ』11/4(月・休)よる9:00他
©2016「超高速!参勤交代 リターンズ」製作委員会
WOWOWではこの秋、以上の5作に加え、「エンターテインメント時代劇7作品一挙放送」と題し『蜩ノ記』('14)、『座頭市 THE LAST』('10)を放送。まとめて観れば、その時代時代を生きた人々の秘められたドラマや、歴史の奥深さをあらためて再認識できるだろう。
『蜩ノ記』11/4(月・休)午前9:15
©2014「蜩ノ記」製作委員会
『座頭市 THE LAST』11/4(月・休)よる11:00他
©2010「座頭市 THE LAST」製作委員会
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文=佐々木優
映像エンタメ誌やweb媒体を中心に執筆する映画ライター。編集プロダクション、出版社、ピンク映画などを経てフリー。1964年生まれ。
[放送情報]
清須会議
WOWOWシネマ 11/4(月・休)午後2:00
のぼうの城
WOWOWシネマ 11/4(月・休)午前11:30
WOWOWシネマ 11/22(金)午前11:45
WOWOWプライム 12/26(木)午後5:30
関ヶ原
WOWOWシネマ 11/4(月・休)午後4:30
WOWOWシネマ 11/26(火)よる9:00
WOWOWプライム 12/2(月)午後5:30
WOWOWプライム 12/30(月)午後5:30
超高速!参勤交代
WOWOWシネマ 11/4(月・休)よる7:00
WOWOWプライム 11/18(月)よる6:00
WOWOWシネマ 11/27(水)よる7:00
WOWOWシネマ 12/10(火)午後2:45
WOWOWプライム 12/18(水)よる6:00
WOWOWプライム 12/28(土)午後4:00
超高速!参勤交代 リターンズ
WOWOWシネマ 11/4(月・休)よる9:00
WOWOWプライム 11/18(月)よる8:00
WOWOWシネマ 11/28(木)よる7:00
WOWOWシネマ 12/10(火)午後4:45
WOWOWプライム 12/18(水)よる8:00
WOWOWプライム 12/28(土)よる6:00
蜩ノ記
WOWOWシネマ 11/4(月・休)午前9:15
座頭市 THE LAST
WOWOWシネマ 11/4(月・休)よる11:00
WOWOWシネマ 11/23(土・祝)深夜2:15
WOWOWプライム 12/25(水)深夜2:30
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