「美人が婚活してみたら」2/28(金)よる9:00他
文=SYO
「外さない設定」というものがある。古今東西の小説や漫画、映画やドラマにおいて、さまざまな人々を魅了してきた「鉄板」というやつだ。その代表格が、三角関係。2人の異性の間で揺れる、という設定はなんというかもう、聞くだけでたまらない気持ちになる。
映画やドラマにおいては、その異性たちを誰が演じるのかが重要だ。人気俳優であればあるほど、視聴者は「ええ、選べないよ!」と観る前からワクワクしてしまうもの。直近のドラマであれば『わたし、定時で帰ります。』('19)の向井理と中丸雄一、『凪のお暇』('19)の高橋一生と中村倫也、田中圭主演の『おっさんずラブ』('18)もそう。映画であれば、『サヨナラまでの30分』('19)の新田真剣佑と北村匠海あたりだろうか。いずれも甲乙つけがたい俳優たちの競演が魅力だ。
そしてまた、どんなキャラクターを演じるのかも重要。ツンデレなのか王様キャラなのか好青年か引っ込み思案なのか...。こういったテイストの作品の面白さは、観る側が「自分ならこの人にするな」とシミュレーションできる...つまり疑似恋愛するところにあるため、性格や収入など、細部までの書き込みが大切なのだ。自分がどっちと付き合うのか、天秤にかけるなら相手の人となりはすべからく知っておきたいものだろう。
はい。ここまでの前提を説明した上で、これを観てほしい。「女性の扱いは実にスマート、大人の雰囲気漂う歯科医・田中圭」と「ちょっと頼りない天然系、だけど超絶優しい商社マン・中村倫也」、あなたはどっちを選ぶ? すぐには答えが出ないのではないだろうか。「ぐぬぬぬ......」と悩んでいる皆さんの顔が目に浮かぶが、これは確かに難題だ。そんな「幸せな悩み」をぶつけてくるいやらしい映画が、今回紹介する『美人が婚活してみたら』('19)である。
美人だが、付き合った男がことごとく妻子持ちだったというタカコ(黒川芽以)は、一念発起して婚活を開始。婚活サイトでマッチングした園木(中村)、シングルズバーで知り合った矢田部(田中)の2人と親しくなり、どちらを選ぶか揺れ動く...。というのがあらすじ。中村さんと田中さん両方といい感じになるなんて、まったくもって贅沢な悩みである。実にけしからん。という本音はさておき、この園木と矢田部...どちらも魅力的な人物だ。
©2018吉本興業
まず、園木は何といっても誠実。笑顔がかわいい。柔らかい雰囲気に包まれていて、一緒にいるとひたすら和む。ただ、ファッションセンスは今ひとつ。また、要領が悪くて目的地までうまくエスコートできない。若干口下手で挙動不審になりがちな部分もあり、あまり頼れるタイプではない。そのあたりをどう見るかだが、かまったり世話したい人には完璧にハマるキャラクターだ。
©2018吉本興業
『孤狼の血』('18)の色気だだもれヤクザや『凪のお暇』の不思議系ヒッピーとはまた違った、とにかくいい人を爽やかに演じ切った中村の演技が素晴らしく、タカコと歩幅を合わせようとして失敗する姿、スマホをうまく操作できない姿、ラブホテルでテンパる姿など、一生懸命なところがキュートで、抱きしめたい衝動に駆られてしまうだろう。
対する矢田部は、肩の力が抜けたアダルトな雰囲気が魅力。服もカッコつけすぎず、それでいて洗練されており、言動すべてで絶妙な"こなれ感"を見せつける。金銭的にも精神的にも余裕があるためガツガツせず、話しやすい雰囲気を醸し出し、一流のバーなどワンランク上の世界に連れて行ってくれる。その反面、結構な遊び人で「今飲んでるんだけどおいでよ」のように連絡も急、手を出すのも早い(その代わり、非常にうまい)。女性を振り回すタイプだ。
©2018吉本興業
『おっさんずラブ』『あなたの番です』('19)などでは"受け"の演技を披露した田中は、本作で緩急の利いた演技を披露。バーで飲むシーンでは聞き役に徹する大人の男を余裕たっぷりに演じ、ベッドシーンでは激しく攻め立て、変幻自在のギャップで観る者をくらくらさせる。彼の表現者としての幅の広さが凝縮された役といっていい。
©2018吉本興業
穏やかな中村か、刺激的な田中か。あなたがヒロインだったら、どちらの手を取るだろう?
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文=SYO
東京学芸大学卒業後、編集者を経て映画ライターに。
CINEMORE、FRIDAYデジタル、映画.com、DVD&動画配信でーたなどに寄稿。Twitter(@SyoCinema)フォロワーは1万8000人超。
[放送情報]
美人が婚活してみたら
WOWOWシネマ 2/28(金)よる9:00
WOWOWプライム 3/4(水)深夜2:00
WOWOWシネマ 3/9(月)午後3:00
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